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The GIFT
プレゼントが彩る12の物語(10)天木 麻乃

The GIFT プレゼントが彩る12の物語

「おはようございます」

このアパートに越してきて1週間
朝、会社に行こうとして玄関を出ると
隣の部屋に住んでいるおばあさんに声をかけられた

おばあさんは、にっこりと微笑んで
朗らかに挨拶をした

聞けば、数年前に旦那さんを亡くし、
今は1人で暮らしているという

品のいいすっきりとした白髪のショートヘアー
一人暮らしだというのに
疲れた様子や寂しさは微塵も感じられない

ただ、とても優しい人なのだろうと
彼女の眼差しが物語っていた

おばあさんはとても親切で
事あるごとに、隣に住む私を
親しい友人のように扱ってくれた

「若いお友達ができて、うれしいの」

そう言いながら
たまに2人で食事をしにでかけた

そんな日々がとても楽しくて
ずっと何かお返しをしたいと思っていた

私の祖母や祖父は
もうずいぶん前に亡くなってしまった

だから、敬老の日という時でも
年配の方にプレゼントをすることは
なかったのだけれど

そうだ 今年は
手づくりのパンとスコーンを焼いて
彼女に持っていこう

きっと風味のいい紅茶を淹れて
楽しんでくれることだろう

こんなに年の離れた友達ができるなんて
今までただ通り過ぎるだけだった日が
私にとってささやかな記念日になりそうだ

いつか自分も
あんな風に年を取れたらいいな

そんな事を思いながら
スコーンを楽しむ彼女の姿を思い浮かべた

Mano Amaki
Writer/Illustrator
URL:https://mano-amaki.jimdofree.com/