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お裾分け好きの裾野さん 第一話柊 織之助
仕事終わりのホットミルク。なんて優雅なことができるわけもなく。私は今日もくたびれたジャケットをリビングに脱ぎ捨てて、ベランダ際でビールを煽っていた。
会社に入って十年近く。プライベートにすら女っけがなくなってしまったのは数年前くらいから。すっかりヨレヨレのワイシャツとビールが似合う女になってしまった。
「……もうなくなっちゃった」
毎日飲んでいるせいか、ビールの消費が激しい。
重い腰を持ち上げ、ベランダ際から離れた。
——ピーンポーン
誰だろう。宅配便が来るような時間じゃない。
——ピーンポーン。
服も直さず、手に持った空き缶も捨てぬまま玄関に向かう。
「今行きますよ〜」
「あら」
そこにいたのはなんとも珍しいお客さんだった。私よりも高い背に、ゆったりとカールさせた茶色の髪。セミロングの髪は夜風に揺られていた。おばさま、というには若くみえるが、私よりは年上そう。
「あの、カレーを作りすぎてしまったの。食べてくださらないかしら」
上品なおばさまは、突如お鍋と共に現れたのだった。
——第二話へつづく…
Orinosuke Hiiragi / Novelist