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お裾分け好きの裾野さん 第二話柊 織之助
「この五穀米と一緒に炊くとおいしいのよ。カレーライスにも合うし」
帰ってもらうタイミングを逃した。と思った時にはすでにお客さまはキッチンに立っていた。裾野(すその)さん、というらしい。最近、隣に引っ越してきたという。そういえば、挨拶してもらったな。酔っていたけど。
「琴乃(ことの)ちゃんはカレー好き?」
「えっと……好きです」
琴乃ちゃん。なんて呼び方は子どもの時以来かもしれない。お母さんがよくこうやって呼んでくれたな。
「母がよく作ってくれました」
「いいわね。今もちゃんとお母さんと連絡とってる?」
「忙しくて」
なんて話をしていると、炊飯器がピピッと鳴った。裾野さんが炊飯器のフタを開ける。ふわぁっと湯気が天井までのぼっていった。しゃもじで裾野さんがご飯を平皿によそい、カレーを上からかけていく。
「さ、食べてみて」
「あっ……美味しい」
じわっと体に入っていくのはカレーと五穀米入りご飯のぬくもり。ひさしぶりに、母の味を食べた気がする。
「よかったらまたお裾分けしてもいいかしら」
裾野さんはうれしそうに笑った。
私は思わずうなづいたのだった。
——第三話へつづく…
編集部スタッフがお話の中に登場するお料理を再現してみました♪ ぜひお話を読みながら一緒にお召し上がりください♪
⇒五穀米とナスのカレーライス
Orinosuke Hiiragi / Novelist