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お裾分け好きの裾野さん 第三話柊 織之助
仕事が終わり、ビールを開けようとした時だった。
ピーンポーン。
「琴乃ちゃんいる?」
あれから裾野さんは、ことあるごとにお裾分けしてくれるようになった。
「いますよ」
「今日はぬか漬けを作ってみたんだけど」
玄関を開けると、ぬか漬けの入ったパックを手に持った裾野さんがいた。
「ぬか漬け、久しぶりに食べます」
「お酒ばっかり飲んでる琴乃ちゃんにいいかと思って」
バレてる。
「健康にいいのよ」
裾野さんは靴を脱ぐと、キッチンへと向かった。私も裾野さんも慣れたものだ。いつの間にか親子のような関係になっていた。
裾野さんは手慣れた様子でぬか漬けされた大根を洗って、包丁で切った。
「どうぞ」
小皿に乗せられた大根を、箸ではさんで口に入れる。カリッという音と一緒にうま味が口いっぱいに広がった。
「どう? お味噌汁も作ろうか?」
「……お願いします」
裾野さんがほほえんだ。
今日くらいはお酒はやめようかな。なんて思ったのだった。
——第四話へつづく…
Orinosuke Hiiragi / Novelist