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お裾分け好きの裾野さん
第十二話柊 織之助

お裾分け好きの裾野さん 第十二話

「これがクレームブリュレ……。なんだかプリンみたい」

出来上がったクレームブリュレの見た目は、プリンと全く変わらなかった。

「違うわ。あとちょっとだけやることがあるの」

そう言って裾野さんはブラウンシュガーを取り出すと、クレームブリュレの上にまぶした。そしてどこからかガスバーナーを取り出した。

「な、何してるんですか」

「見ていて」

ボッ、とガスバーナーに火がついて、ブラウンシュガーを炙っていく。するとすぐにブラウンシュガーが溶けていった。香ばしい匂いが漂ってきたところで、裾野さんはガスバーナーの火を止めた。
 
「焦げ色が綺麗…」

「これが固まるの。数分冷やしたら出来上がりよ」

裾野さんはそう言ってクレームブリュレを冷蔵庫に入れた。

数分後。

「さ、食べてみて」

「でもどうやって」

リビングに置かれた座布団の上に座って、クレームブリュレと対面する。スプーンで食べようとするけれど、溶かしたブラウンシュガーが薄くて硬い飴になっていた。

「こうやって、心の壁を壊すみたいに思い切って割ってみて」

「心の壁……」

私は恐る恐るスプーンを構えると、心の壁を目掛けて振り下ろした。

——パリッ。

空まで突き抜けていきそうな、軽い音がした。

「アメリっていう映画でね、主人公のアメリもこうやって心の殻を割るのよ」
 
——パリッ。

裾野さんも割っていく。

私は、カリカリのカラメルと一緒に甘いプリンと一緒に口に入れた。

「おいしい……」

ちょっと苦くて、とっても甘い。美味しいスイーツだった。

「心の殻は割れたかしら」

裾野さんは目尻を垂らしてほほえんだ。
 
きっと、全部お見通しだ。私はうなづくと、もう一回心の殻を割ってみたのだった。

今度は、私が裾野さんにお裾分けしてみようかな。なんて思いながら、私はクレームブリュレを味わったのだった。

 
——おしまい

Orinosuke Hiiragi / Novelist

 
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短編小説「お裾分け好きの裾野さん」全12話をお届けしました。ご覧いただき、ありがとうございます。

次回より、神埼寧さんによる短編小説「ひだまりに咲く犬」(全12回)の連載をスタートします。

あらすじ:内向的な女の子と、心を閉ざした保護犬。ふとした縁で出会ったひとりと一匹が、やがてお互いのやさしさと温もりを知り、友情を深めていくお話。

どうぞお楽しみに。
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