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ひだまりに咲く犬 1神埼 寧
焼きあがる前のパン生地が、目の前にころがっている。というのはあくまでたとえ話。実際には白い犬が体を丸めてじっとうずくまっている。背中にふれようとすると、電気が走ったかのように全身を脈うたせた。かなりおびえているようだ。困った、困った。
少し時間をおいてから、おびえた犬のふかふかな毛並みを人さし指でそっとなぞる。最初のようにおじけるそぶりこそ見せないが、顔はまだ隠れたままだ。
そうだよね。いきなり見ず知らずの人間に、知らない場所に連れてこられて。こわいよね。わたしだったら、きっと逃げ出している。
「……たんぽぽ?」
名づけたばかりの名前を呼んでも、反応がない。わずかに体がふるえている。
まくらの綿みたいにフワフワとした犬は今日、わたしの家族になった。
——第二話へ続く