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Letters. 君と詠む歌 第十一首玉舘(たまだて)

前回までのあらすじ:ベランダで夏の名残の花火を楽しむ二人。「一人は寂しくないか」と聞く天津に「ずっと独りだから」と答える玉緒。帰る時間だね、とつぶやくと線香花火の魂が最後に大きく揺れ、そのまま二つそろって地面に落ちた。

第十一首

言うべきかわからないけど
おにぎりの海苔はしなしな派だよ、ばいばい

帰り道、バッグのポケットから薄いメモ帳を取り出して、隣をぼんやりと歩く彼女に渡した。

「何?」
「俺が作った短歌です」

へぇ、と心底どうでもよさそうに相槌を打つのは、決して人の話を聞いていないわけではなかった。彼女がちゃんと人の話に耳を傾け、ゆっくりと咀嚼している証拠。

「君、前世は本当に歌人だったんじゃない?」

さっと読み終えたあと、そう言いながらこちらを見上げた。街頭の灯りを集めて、彼女の目が光っている。

「俺、天才かもしれません。6個も詠んじゃいました」
「天津くんの言葉、私好きだよ」
「…玉緒さんも見せて下さい」
「わかった、後で送る」

この気持ちはたぶん恋だから、いつか書き換えなければいけない日がくるかもしれない。でも、それまでは忘れないでいたい、と思う。

「俺、玉緒さんのこと全然知らない」
「私、アイスはそこまで好きじゃない」
「えぇ、マジか」
「ラーメンは塩、おにぎりの海苔はしなしな、プリンは固いのが好き」
「…俺はとろとろのやつが好きです」

—第十二首につづく

Tamadate / Novelist & Poet