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Letters. 君と詠む歌 第十首玉舘(たまだて)

前回までのあらすじ:玉緒はいつも一人だった。飲み会の時も、今も。まるで酒を胃に流し込むのが、紫煙を吐き出すのが仕事なのではと思うほどに一人だった。そんな玉緒へ好意を寄せる天津に「独りを楽しんでるから綺麗なのだ」と告げる。

第十首

もう帰る時間だね、と君は呟く
だから線香花火は嫌い

「一人って寂しくないですか」
「ずっと独りだから」

強いんですね、と言いながら彼は花火の火を私に分けた。べランダは思いのほか風が吹き荒れていて、少し秋の気配がする。

「別に、君は私のこと大好きなわけじゃないでしょ」
「まぁ、はい」
「寂しい人を探して一緒になればいいよ、そしたら独りじゃなくなるから」

「じゃあ、なんで俺といま一緒にいるんです?」
「信じてみたかったから」

花火界で、線香花火がいちばん好きだ。いいにおいがするし、片付けやすいし、なにより後腐れがない。

「あと、まぁ夏だし」
「俺、ちょっと玉緒さんのこと」
「…ありがと」

そこまで倹約するのか、というほど彼は私の吸いかけの煙草を、消えてなくなるまでチビチビと口にあてていた。溢れんばかりの若さを吐き出すその唇に、吸いついたらどうなるだろう。

「帰る時間だね」

線香花火の魂が最後に大きく揺れ、そのまま二つそろって地面に落ちた。

—第十一首につづく

Tamadate / Novelist & Poet