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Letters. 君と詠む歌 第九首玉舘(たまだて)

前回までのあらすじ:天津を自宅に招き、一緒に食事をとることにした玉緒。会話の最中にふと天津の手が玉緒の髪の毛に触れる。こうしたひと夏の夢みたいなものを年甲斐もなく欲していた玉緒だったが「こういうのは彼女とやれば?」と突っぱねた。

第九首

昼頃に崩れるファンデも 夜まで持つよ
ひとりで生きていけるから

「会社の同期が、天津くん彼女いるって言ってたけど」
「あー、元カノとは先月別れたんで、大丈夫ですよ」

あー先月、とオウム返しをする彼女の横顔を見て、やっぱり綺麗だと思った。短歌とか、占いとか、そんなのは正直どうでもよくて。

ここ私の家だし吸っていい?とおもむろに煙草を取り出す。

「なんで私が綺麗か、知ってる?」
「え?」

彼女は常に周りに流されているようでいて、実際はいつも一人でいる。飲み会の時も、今も。まるで酒を胃に流し込むのが、紫煙を吐き出すのがこの人の仕事なんじゃないかと思うほどに、一人だった。

「一人だから、ですか」
「そうだよ、独りを楽しんでるから綺麗なの」
「楽しむ」

吸い始めたばかりの煙草を俺に渡して、彼女は俺の手から花火の袋を奪った。煙草の口には薄い赤がついていて、彼女の生の名残りを感じる。

—第十首につづく

Tamadate / Novelist & Poet