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小さなドラマの小さな駒たち - ⑤ 「クッキーモンスター」田崎ゆきこ
第5話
『クッキーモンスター』
生まれて初めて作ったお菓子はクッキー。家にあったハートの抜型で、抜くのが、粘土細工のようで楽しかった。だけど、いざ焼くと、全然、おいしくなかった。粉っぽくて、どんなに冷ましても、ぶよぶよしていた。
母は料理上手な人だったので、そのまずいクッキーを、自分の今まで培ったレシピを駆使して、おいしく変身させた。私の焼いた失敗クッキーをこなごなに砕いて、卵、砂糖、小麦粉、チョコチップ、他に何か白い粉を入れて、大きな型に流し込んで焼いた。すごく美味しい、しっとりしたケーキになった。
お母さんは「おいしくなったでしょ。」と、得意気だったけど、私は不満だった。
まずくても、そのままで食べて欲しかった。「今度は上手に焼けるよ。」と言って欲しかった。おいしく変身させて、お母さんのお手柄!というのは、私には、どうにも大人の狡さに思えてならなかった。