Story

運命の人と出会う日鈴木 春

運命の人と出会う日

今、一番欲しいものは何かと聞かれれば、しばらく逡巡した後、私は「無印良品で売っているレチューザの鉢に植えられているウンベラータ」と答えるだろう。ウンベラータとは、ザ・南国といった感じの青々とした葉を生やす観葉植物である。

最近、300円程度で買えるパキラを購入してからというもの、あれよあれよという間に、いわゆる「園芸」にハマってしまった。最初はほんの軽い気持ちで始めたが、徐々に、かけるお金と時間が増え、花屋を見かければ立ち寄り、先程述べたウンベラータの商品ページを見ては部屋のどこに置こうか空想にふけっている。

金額だけで言えば、3万円程度だ。買えない値段ではない。私がためらう理由は簡単である。私は熱しやすく、冷めやすい。いわゆる飽き性なのだ。大きな観葉植物の世話に飽きてしまった場合に招く、最悪の結末は想像に難くない。そして購入時の金額を思い出してはきっと気が滅入るに違いない。

今までも、私の人生はハマっては飽きての繰り返しだ。オタク気質で一度ハマると周囲に引かれるほどそれしか見えなくなるが、どれも長続きはしない。社会人になってすぐの頃は男性アイドルグループにハマり、出演しているテレビ番組を録画するためだけに高額なブルーレイレコーダーを買ったものの、3年ほどでファンクラブもやめてしまった。その後そのレコーダーは黒い置物と化した。ファンクラブを辞めた頃には、いわゆる体験型のゲームイベントにハマり、ハマりすぎた結果、関連会社に転職してしまった。

仕事は今のところ続いているが、激務だったために生活が荒れに荒れ、このままではいけないと癒しを求めた結果、今はいわゆる「丁寧な暮らし」への並々ならぬ憧れへと行き着いてしまった気がする。

自分の関心ごとが刻一刻と変わって行くことに関しては「貯金ができない」というデメリットに目をつぶりつつも楽しんでいる。そして、そんな私はきっと結婚には一番向かない人種なのだろうと思う。

家から徒歩15分の距離に住んでいる両親とはほぼ会っていない。会ったとしても年に一度、渋々会いに行き、10分程度でそそくさと帰る。元々、仲が良くもないが、会えば呼吸をするペースで「いい人はいないのか」と繰り返し聞いてくる母に会うのが苦痛で仕方がないのだ。やめて欲しいと伝えても10秒後には忘れてしまうのでもう会わないことにした。

結婚がしたくないのかと聞かれれば、してはみたい。でもそれは将来か不安だからでも、周りのみんながしているからでもなくて、一生に一度くらいは「あなたを一番大切にします」とお互いに誓いあえるいわゆる“運命の人”というやつが、せめて一人くらい、現れてくれても良いのではないかと思うからだ。

しかし、その誓いを守り続けられるのかは、自分が一番疑わしい。今は世話をするのが楽しくてしょうがないパキラに対する情熱も、ある日突然すっとなくなってしまうかもしれない。3ヶ月後の自分が今も同じ仕事を続けているのか、同じ場所に住んでいるのかもわからない。日本にすらいないかもしれない。

飽きっぽいという短所は、よく言えば、新しいもの好きで好奇心旺盛だ。そのため、私の毎日は楽しい事で充実している。そんな自分の事も、この日々も、むしろ好きだ。今この時が楽しければ、それで良い。

そんな私にとって、“運命の人”と出会う日は、死ぬ少し前ぐらいがちょうど良いのかもしれない。