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お裾分け好きの裾野さん 第四話柊 織之助
「今日はなんと、鮎を持ってきました」
「鮎、ですか」
休日、裾野さんは嬉しそうだった。
「スーパーにあったの。珍しくてついたくさん買ったら余っちゃって」
「あー。魚って悪くなりやすいですよね」
「だから食べてくれないかしら」
「そういうことなら」
いつものように、裾野さんは私のキッチンに立った。塩を鮎のひれにつけ、身にも薄くつけていく。その後コンロで焼きはじめたかと思うと、あっという間にいい匂いが部屋中にたちこめていた。
「できたよ。手でつかんで食べるのが一番おいしいわ」
「いただきます」
手が汚れるのも気にせず、鮎の塩焼きをほおばる。
「おいひいです。出きたてのアツアツで」
「子どもたちもおかわりほしいってきかなかったのよ。その鮎は守りきったわ」
「でも、余っちゃったって」
「あら。そんなこと言ったっけ」
ふふ、と裾野さんは笑った。
そんな優しさが嬉しくて、つい私は鮎をおかわりしていたのだった。
——第五話へつづく…
Orinosuke Hiiragi / Novelist