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わたしの、宝石箱。(1)雁屋 優
そっと、靴に足を入れて、立ってみる。ぐらり、と世界が揺れた。数年ぶりのヒール。ピンヒールでもなく、3cmから5cmの安定したヒール。普段からヒールを履いている人にはきっとなんてことない高さなんだろう。でも、私にとっては数年ぶり。学生のときのブーツ以来。
すっと、背筋が伸びる感じがした。今日まですごく猫背だったのがよくわかる。夏が迫っているけど、あたたかいと言い切れない、少しひんやりした風を受けて、おそるおそる、足を動かした。
ぐらぐらの世界。視界が高くなって、憧れの160cmに届いて、頬が緩んだ。視界が高くなっただけと言えばそうだけど、私は世界が広がった気がする。
広がった世界で、私は今日も息をする。