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お裾分け好きの裾野さん 第十話柊 織之助
なんてことない晴れの日に、笑顔で歩く元恋人を見かけた。隣には知らない女性。
そりゃあそうよね。もうずっと前の話だし。
気持ちを心に押し込んでみるけれど、いつの間にか狭くなってしまった私の心には、素直に入ってくれそうになかった。
「琴乃ちゃん。今日はまた卵がね……。あら」
「どうかしたんですか」
裾野さんの前では元気でいようと思っていた。
「お酒たくさん飲んだね」
「……」
裾野さんは鼻を私の胸もとに近づけて、クンクンと嗅いだ。
「今日は卵をお裾分けに来ました。レシピはそうね……とっておきを作ってあげる」
「とっておきですか?」
「えぇ。大変だから琴乃ちゃんも手伝って」
——第十一話へつづく…
Orinosuke Hiiragi / Novelist