1/365

お裾分け好きの裾野さん 第十話柊 織之助

お裾分け好きの裾野さん 第十話

なんてことない晴れの日に、笑顔で歩く元恋人を見かけた。隣には知らない女性。
そりゃあそうよね。もうずっと前の話だし。

気持ちを心に押し込んでみるけれど、いつの間にか狭くなってしまった私の心には、素直に入ってくれそうになかった。

「琴乃ちゃん。今日はまた卵がね……。あら」

「どうかしたんですか」

裾野さんの前では元気でいようと思っていた。

「お酒たくさん飲んだね」

「……」

裾野さんは鼻を私の胸もとに近づけて、クンクンと嗅いだ。

「今日は卵をお裾分けに来ました。レシピはそうね……とっておきを作ってあげる」

「とっておきですか?」

「えぇ。大変だから琴乃ちゃんも手伝って」

 
——第十一話へつづく…

Orinosuke Hiiragi / Novelist