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ひだまりに咲く犬 5神埼 寧

「お姉ちゃん、この子お山育ちなんだって!」

花梨がうわずった声で言う。

花梨の腕に抱かれている犬を見つめていると、近くにいた譲渡会の人が話しかけてきた。

「その子はね、母犬と山で暮らしていたの。ときどきご飯を探しに山を降りてきていたみたい。でも母犬とはぐれてしまったのか、山のふもとでひとりで鳴いていたところを保護されて、ここへやってきたの」

わたしはうなずきながら再び犬に視線を戻す。わたぐものような犬だ。あまりに白いから、毛先一本一本が透けて見える。大人しくだっこされているが、しきりに舌を出して不安そうな面持ちだ。

手をのばし、頭を撫でようとすると犬の体が激しくふるえる。思わず手を引っ込めると、譲渡会の人が言った。

「ちょっと臆病なのよねぇ。人が怖いみたい」

 

——第六話につづく

Nei Kanzaki
Writer/Novelist
URL:https://twitter.com/nei_knzk