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三日間だけ生えた羽 第八話柊 織之助

あらすじ:高校の同窓会に参加した主人公・文(あや)。社会人として成長した姿を見せる旧友たちと違い、いつまでも大人になれない自分。そんなとき、ふいに高校3年生の夏を思い出す。天使見習いのルーナと出会い、三日間だけ羽が生えた日のことを。

第八話

高校生。羽が生えた日の夜。

「あと三日で私が大人になれなかったらどうなるの?」
「帰れなくなるね」
「ずっといるのはやめてよ」
「大丈夫だよ。きっと見えないから」

ルーナは肩を落とすと、眉を悲しそうにひそめた。

「文を大人にできなかった罰として、この世界で誰にも存在を知られずに過ごすんだ」

誰にも存在を認知してもらえない。その恐怖はわかる。私も、大人になれなかったら一人になってしまいそうで怖かった。
口をついて出た言葉を前に恥ずかしくなる。

「ずっとここにいることになるの?」
「文が自分で大人になるまで」

ルーナは朝湿りで濡れる草木のような、しっとりとした声で言ったのだった。

—第九話につづく

Orinosuke Hiiragi / Novelist