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三日間だけ生えた羽 第十二話(最終話)柊 織之助

あらすじ:高校の同窓会に参加した主人公・文(あや)。社会人として成長した姿を見せる旧友たちと違い、いつまでも大人になれない自分。そんなとき、ふいに高校3年生の夏を思い出す。天使見習いのルーナと出会い、三日間だけ羽が生えた日のことを。

第十二話(最終話)

私は電車に揺られて、当時通っていた高校の最寄駅まできていた。駅を降りて正門の前まで歩く。

あの日から、私は大人になれていない。難しい話は苦手だ。正論とか、議論とかも苦手。それでも大人になれるだろうか。

——誰かに言われてなるものじゃない。

由美の言葉が脳裏に浮かぶ。

私は誰もいない学校をじっと見つめてから、踵を返した。ここからもう一回試すくらいはやってみてもいいかな。あの不思議な天使見習いのためにも。

駅に向かって歩きだす。帰ったら、とりあえず無闇な旅はやめよう。前からやりたかったケーキ屋を目指してみようかな。まだ間に合うといいな。

いろんなことを考えながら歩いていると、後ろから鳥が飛ぶような音がした。翅(はね)を広げたような、強かな音。それが聞こえたような気がしたのだった。

Fin

Orinosuke Hiiragi / Novelist

 
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短編小説「三日間だけ生えた羽」全12話をお届けしました。ご覧いただき、ありがとうございます。

次回より、 玉舘(たまだて)さんによる短編小説「Letters.君と詠む歌」(全12回)の連載をスタートします。

あらすじ:前世占いで「ふたりの前世は平安時代の歌人」と告げられた玉緒と後輩の天津。ひとりで生きることに慣れきっていた玉緒は、親しげに距離を詰めようとする天津の若さを暑苦しく感じながらも、彼と二人で"ひと夏の思い出"をつくろうと考える。正反対な二人がおもしろ半分で詠んだ12首の短歌と、その歌が生まれた12の瞬間の物語。

どうぞお楽しみに。
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