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Letters. 君と詠む歌 第四首玉舘(たまだて)

前回までのあらすじ:玉緒をデートに誘うが「私、天津くんと付き合う気ありません」と冷ややかに牽制される天津。デートは恋人じゃなくてもできるし、短歌を一緒につくりたいからとあれこれ理由をつけて、まずは仕事終わりに一緒に帰ってみることを提案する。

第四首

初恋の味は忘れた ノーカンで
あなたの味を 教えて、今

「前世はふたりとも平安時代の歌人?」
「そう」
「試しにふたりで短歌作ってみましょうって?」
「そう」
「で?前世の愛し合った記憶がよみがえったりするの?」
「そうなの?」

どこのB級映画だよ、と隣のデスクの和泉が笑う。彼女はいつも引き出しに飴を忍ばせていて、夏の暑さでベタベタに溶けた砂糖の塊を時々くれる。

「で、好きなの?天津のこと」
「ふつう、でも今日は一緒に帰る」
「なんだ、玉緒は相変わらずしっかりしてるね」

いつも和泉は私のことを「しっかりしている」と言うので、きっとそれは良いことなのだと思う。なにより、彼女はなんでもない日でも私に甘い飴をくれる。

「楽しそうじゃん、まぁ来年の今頃には玉緒は忘れてそうだけど」
「どうだろう、あ、美味しい」
「え?」

いつもは砂糖の味しかしないのに、今日のはリンゴのそれだと分かった。さっき、煙草があまり吸えなかったからかもしれない。

「恋じゃないから、忘れる必要ないもの」

—第五首につづく

Tamadate / Novelist & Poet