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龍のコインが来て、そして ⑨
「ひと晩だけヒトに」中臣モカマタリ

龍のコインが来て、そして

9.
『ひと晩だけヒトに』

夜中にピンポンが鳴ったのでモニターを見ると、知らない女の人が立っている。
「ごめんなさいごめんなさい、わたしねずみなんです。ひと晩だけ、人間になったのです。案内してください、おねがいしますおねがいします」

前歯がでているが、かわいくなくもない。暇なので連れて出た。気がつくと、溝の中を歩いていたりする。公園で丸いジャングルジムがくるくる回るやつに一緒に乗ったら、すごく楽しそうにしていた。コンビニに寄ると、チーズの前で食べたそうにしているから、プロセスチーズを買ってあげて、ふたり並んで夜道で食べた。

しばらく街を歩くと満足したのか、
「楽しかったです。ありがとうありがとう」
といって、夜の中に消えていった。

次の日、噂を聞きつけた別の動物が訪ねてきたりしたらどうしようと心配していたけれど、誰もやってこなかった。
あのねずみちゃん、今頃どうしているんだろうな。

 

—第10話につづく

中臣モカマタリ / Novelist