小さなドラマの小さな駒たち - ⑨ 「チューリップチェツカー」田崎ゆきこ

第9話
『チューリップチェツカー』

　ベランダにプランターを置いて、チューリップの球根を５個植えた。そのうちに、ぴょっと、緑のくちばしのようなかわいい芽が出た。
　朝、目を覚まして真っ先にするのが、ベランダに出て、チューリップの育成状況のチェックだ。少しずつニョコニョコと伸びてきている様子を眺めるだけで目元が緩む。
　朝だけじゃない。会社で嫌なことがあって、帰宅すると、以前だったらすぐに冷蔵庫をがばっと開けて、ビールをとりだすところが、いまは、ベランダを開けて、チューリップ君たちの顔を見に行く。夜だから、そう成長していることはないのだが、ちゃんと明日も成長します、というような姿勢のよい茎を見ると、心が凪いだ。
　思いがけない、物言わぬ友達ができた。